クルマはただの移動手段じゃない! マニュアル車のフェアレディZと過ごす“めっちゃオモロい”カーライフ
クルマが若者の憧れの存在であり、カッコいいクルマに乗っていることがステータスだったという80年代。スポーツカーやデートカーなどが次々に登場し世間を賑わせていた時代に青春を謳歌した秋庭さんは、ハタチの頃に憧れたクルマに3年前から乗っている。
「当時、社会人になったばかりの僕は、お金が無くてフェアレディZ(Z32)が買えなかったんです。『ええおっちゃんが赤い派手なクルマに乗って、何言うとんねん!』と思われるかもしれませんが、ハンドルを握ると20代に戻った気分になるんですよ。その時代のクルマの象徴みたいな部分を見ると、記憶が蘇ってくるというか」
「例えばこのアンテナ。昭和時代のクルマって、ラジオを聞くときにアンテナを手で引っ張り出すというのが主流やったんです。やけど、僕のフェアレディZはちょっと仕様が違っていて、ラジオをかけるとウィーンと自動で出てくるんです。これが、このクルマが販売されたバブル期っぽくて好きなんです。ただのアンテナですけど、こういう細かい部分に懐かしさを感じるんですよね。今じゃラジオのアンテナすら見ないもんなぁ」と言いながら、腕を組んで昔の思い出を確かめるかのような横顔の秋庭さん。
初めて購入したクルマであるミラターボで鳥取砂丘まで友達とドライブに行き、公衆電話から家に電話したら父親に「帰ってくんな、おめー!」と怒られたこと。
社会人3年目で頑張ってローンでソアラツインターボL(JZZ30)を購入したのに、半年後に東京に転勤になってしまい父親が自分のクルマのように乗り回していたこと。
ほかにも若かりし頃のたくさんの思い出が、フェアレディZに乗ると糸を手繰るように蘇るのだと話してくれた。
そんな秋庭さんがフェアレディZを手に入れることになったキッカケは、その前に乗っていたMR2 GT(SW20)の外装が痛み、維持が出来なくなったからだという。
「MR2は2011年8月に我が家にやってきて、約7年半お世話になりました。迎え入れたその日から笑えることが沢山あって、僕の第2の青春が始まったという実感がありましたね。購入して初めての週末に、地元のガソリンスタンドへ洗車に行ったんです。そしたら運転席側の窓の隙間から雨漏りしてしまい、車内からぞうきんで押さえながら洗車機を通しました。あれはめっちゃカッコ悪かったわぁ」
そんなドタバタ劇が最高だったと語る秋庭さんとは対照的に、奥様にはかなり不評で「エンジンが後ろにあるからうるさい!」「乗り心地が悪い!」など、なかなか良さを理解してもらえなかったという。
そんな奥様は最寄り駅への送迎のためにMR2に年数回だけ乗る程度だったそうだが、「真夏の日差しの強い日で、僕がサンバイザーを下げたんです。それを見た嫁さんが助手席側のサンバイザーを下げた瞬間……、Tバールーフの内張りが嫁さんの頭の上にドカン。ドリフターズのコントで上からタライが落ちてくるでしょ?あんな感じの光景を目の当たりにして大爆笑させていただきました」
「きっとあれは、MR2の悪口を言い過ぎた天罰やなと思います(笑)。あいつ“やる時はやるクルマ”だったんですよ」と、数少ない搭乗機会に限って笑いの神様が舞い降りたのが1番面白かったと笑顔で話してくれた。
思い出のたくさん詰まったMR2を手放す時は、やり切れない気持ちでいっぱいだったものの、そんな時に若い頃にどうしても購入したかった夢のクルマの存在が頭に浮かんだという。
「そうや、フェアレディZがおるやん!!ってなったんです。TVコマーシャルで”スポーツカーに乗ろう”のキャッチコピーと赤いZが走ってくる映像が頭に思い浮かんだんです。それで、すぐに中古車を探し始めたらAT車がヒットしました。本当はMT車が良かったのですが、人気の旧車で球数が少ないと知っていたので、乗れるだけ有難いよなとAT車に決めかけていた翌々日に、たまたまインターネットオークションでTバールーフ、5速マニュアルのZ32が目にとまったんです。このタイミングで自分の理想とするフェアレディZが見つかったのは運命や!と思い、その週末に名古屋まで現車を確認しに行って、即決しました」
時代の移り変わりと共にAT車が大半を占めるようになり、存在感が希薄になっていったマニュアル車だが、秋庭さんは「スポーツカーといえばマニュアル車だ」と公言する。
「AT車の方が効率よくスムーズにギヤチェンジされるので、速くて運転がしやすいことは分かっているんです。だけど僕は、そこを逆らってマニュアル車に乗りたいんです。それはやっぱり、自分で操ってる感が楽しいからですね。嫁さんの実家に行く時に山間を縫って走るんですけど、速度や道に応じてギアチェンジしながら走るのはめちゃくちゃ楽しいですよ」
「あとは、坂道発進もなかなか面白いです。クラッチをソーッと繋いで、エンストせぇへんかな?大丈夫かな?とドキドキ、ハラハラしながら手に汗握って緊張しながらスタートするんです。こういうのも、運転しにくいと言ってしまえばそれで終わりだけど、MTならではの演出だと思うんですよね」
「僕の若い頃は、坂道でエンストをしたら後ろからクラクションを鳴らされて怒鳴られてたんですけど、今は坂道で下がったりエンストしたりしたら後ろのクルマが次の信号待ちから車間をとって止まってくれますよ。いや、そこまで離れんでも大丈夫やでというくらい(笑)」
クルマの細部からバブルを感じるのと同じように、こういった周囲の反応の違いからも時代の変化を感じる、としみじみ語ってくれた。
いっぽうで走行性能については、1989年の発売当時に国内では高出力エンジンだったということもあり、ハンドルを切った時のフロントの反応のよさや、しっかりした足まわりも含めて30年たった今でも快適に運転できるそうだ。燃費も高速なら10 km/Lくらい走るので大健闘だという。
先月取り替えたリヤスポイラーもお気に入りポイントだ。11年に渡って販売されたフェアレディZは、同じモデルでありながら部分的にモデルチェンジを繰り返していて、秋庭さんのフェアレディZは4代目となるが、リアスポイラーは最終型のものに交換したのだという。
「夏と冬のボーナスで多めに出たお小遣いをかき集めて購入しました。テールランプの色は4代目の特徴であるオレンジなのに、このデザインのウイングを取り付けているというのが有り得ない組み合わせで面白いかなって。それでも、純正パーツやからボディにはよく馴染んでいると個人的には思っています」
週末に市内をウロウロしたり、自分へのご褒美として運転することが多いが、モットーは車庫にしまっておかないということだという。
「僕の“大事にする”というのは、普通に乗って思い出を作ることなんです。修理できません、と言われるまで大切に乗り続けたいです」ということだ。
「僕の人生はクルマ三昧なんです。幼少期の頃は買い物カゴにミニカーを山盛りに集めて、小学生になったらクルマのプラモデル作りにハマり、高校ではラジコンに夢中になり、社会人になるとレーシングカートのレースに参戦するようになりました。常にクルマが側にいるから、クルマがいなくなると寂しく感じると思うんです。そう考えると、僕にとってのクルマって相棒みたいなものなんです。移動するだけの道具なんかじゃなくて、人生をすごく充実させてくれる存在なんですよ」
夢想した念願が叶い、大好きなクルマで幸せ街道を突っ走っている秋庭さん。「フェアレディZとは、どんな面白いことが起こりますかね?」という質問に対して「めっちゃオモロいに決まってるやん!!」
と、目をキラキラさせながら答えてくれた。
取材協力:大蔵海岸公園
(⽂: 矢田部明子/ 撮影: 平野 陽)
[GAZOO編集部]
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