【試乗記】トヨタ・シエンタZ 7人乗り(FF/CVT)
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トヨタ・シエンタZ 7人乗り(FF/CVT)
令和の国民車
日本の道路と日本人の生活に合ったカタチ
一度は販売を終えたモデルが再登板という珍しいドラマが展開された理由は、「後継モデルへの移譲が思いどおりに進まなかった」という点にある。そんなシエンタの復活劇や、昨今における軽スーパートールワゴンの隆盛を耳にすると、もはや日本での主流は「コンパクトサイズのスライドドア付きモデルなんだナ」と、あらためて認識せざるを得ない。
世界の自動車マーケットのナンバー1とナンバー2が、ともに大きなクルマを好む中国とアメリカになって久しく、さらにそうした地では、航続距離を伸ばすために大容量バッテリーを搭載するという“力業”に臨んだピュアEVの販売が急伸しつつあると聞く。再開発された地域以外では、まだまだ狭隘(きょうあい)でしかも電信柱が飛び出した道路が少なくなく、大出力充電器のインフラ整備も絶望的といえるほど進展していないわが国にあっては、そうした実情と多くの輸入車との“乖離(かいり)現象”がますます進行していることを実感させられる。
果たして、2022年夏に3代目となった新型シエンタの販売の立ち上がりは好調と伝えられる。また最大のライバルとされ、シエンタ同様5ナンバーサイズでスライドドアを備える「ホンダ・フリード」も「2022年度上半期3列シートミニバン販売台数第1位」を達成。現行型の登場から丸6年が経過して、そろそろフルモデルチェンジがウワサされるにもかかわらず、やはり好調を継続中だ。
正直、趣味性が低いゆえに”クルマ好き”の興味の対象とはなりにくいキャラクターなのは事実であろうが、国情に合致し、マーケットも活況を呈しているのは事実。そんなコンパクトミニバンの新顔である新型シエンタに、あらためてスポットライトを当ててみた。
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2022年8月に発売された3代目「トヨタ・シエンタ」。「シカクマル」をコンセプトにしたデザインや、全面刷新されたプラットフォームなど、全身これ見どころといったクルマとなっている。
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広大なグラスエリアと低く平らなダッシュボードの形状により、運転席からの視界は抜群。豊富な収納スペースに、スマートフォンなどの充電に重宝するUSBソケットと、今日のファミリーカーに求められる機能・装備はしっかりそろえられている。
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試乗車には無償オプションの「ファンツールパッケージ」が採用されており、内装色がカーキとなっていたほか、通常はブラックとなるBピラーがボディー同色で塗装されていた。
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パッケージングの変更により、最も恩恵を受けたのが2列目シートの居住性。室内高は先代比+20mmの1300mmとなり、また前席との距離も80mm長くなった。
機能を追求した開発の姿勢とその恩恵
2750mmのホイールベースも従来型から変わりのない値だが、実はクルマの骨格たるプラットフォームは「TNGA」を称する新世代のアイテムへと刷新されている。詳しくは後述するが、全幅と全高が同一で相対的に背が高く、しかもボディー剛性の確保や重量面では不利なはずのスライドドアを備えた“こうしたクルマ”にもかかわらず、気がつけばワインディングロードでの走りを楽しんでいる自分がいた。主要骨格を連結させた環状骨格構造や高減衰タイプの構造用接着剤の採用などで実現した高剛性ボディーが奏功していたことは間違いない。
加えて、1・2列目シート間のタンデムディスタンスを80mm、室内高を20mm、上側方のヘッドクリアランスを60mm拡大させるなど、従来型でも十分広いと思えた室内空間をさらに広げるべく緻密な工夫が施されている点も見逃せない。ちまたでは「足もとをたくましく見せたい」という思いもあってシューズ(=タイヤ&ホイール)の大径化が進むなか、全仕様に15インチを採用し、従来型には存在した16インチの設定をオプションリストから外したことも、このモデルが機能性の高さを追い求めた“真面目な道具”として、真摯(しんし)に開発されてきたことを物語っている。
結果、最小回転半径は従来型を下回る5.0mを達成。実際、細い路地へと歩を進めると、そのボディーの見切りのよさや取り回し性の高さから、「これこそが現代の“国民車”ではないのか」と、あらためてそんな思いを抱かされることになった。
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ボディーサイズはFF車で全長×全幅×全高=4260×1695×1695mm。先代(マイナーチェンジ後のモデル)と比べると、全長・全幅は全く同じで、全高のみ20mm高くなった。
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収納スペースは数が豊富なだけでなく使い勝手も申し分なし。各部のドリンクホルダーは紙パックや大型のペットボトル、小型の水筒などにも対応する。
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2・3列目シートを格納した状態のラゲッジスペース。3代目「シエンタ」の荷室高は1105mm、荷室幅は1265mm。荷室長は3列目格納時で990mm、2・3列目格納時で1525mmとなっている。
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タイヤサイズは全車共通で185/65R15。ホイールはスチールホイール+フルホイールキャップが標準で、「Z」と「G」の2グレードには写真のアルミホイールがオプション設定される。
意外にもワインディングロードが楽しい
ただし、エンジンに火を入れ古風なストレートパターンのATセレクターでDレンジを選択し、いざスタートという時点で「あ!」となったのは、なんとパーキングブレーキが足踏み式であったこと。最新モデルからはとうに姿を消したと思えたこの方式だが、この期に及んでよもやの再会。せっかく標準装備される全車速対応の追従機能付きクルーズコントロールも、この影響で停止保持機能を持たないのは大いに残念である(電子式ATセレクター採用の「ハイブリッドZ」グレードのみ停止保持に対応)。
一方、それとは対極的な“未来感”を覚えることになったのが、運転支援機能「プロアクティブドライビングアシスト」に含まれる、コーナーへのターンイン時に働く減速支援の働き。アクセルオフの操作に対して上乗せのカタチで作用するブレーキングの制御はなかなかに絶妙。コーナリング中もブレーキランプが点灯したままだと思うと、ときにうっとうしく思う場面もあったのは事実だが、もちろん機能をカットすることも可能になっている。
1.5リッター3気筒の自然吸気エンジンが発するパワーはもちろん強大というわけではないし、静粛性に関してもそれなりという感覚で特に静かでもやかましくもない。しかし、ステアリング操作に対する応答性は正確で4輪の接地感も良好。ブレーキはペダル踏力に応じてリニアなコントロールが可能な特性の持ち主ということもあって、ワインディングでは思いのほか楽しめてしまった、というのは前述のとおりである。
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3代目「シエンタ」の車両重量は1270~1420kg。純ガソリン車は同グレードのハイブリッド車と比べて60~70kg軽量で、ワインディングロードでも存外に軽快な走りを楽しめた。
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運転支援システムはおおむね全車共通だが、「ハイブリッドZ」のみアダプティブクルーズコントロールに停止保持機能が付くほか、ドライバー異常時対応システムが装備される。
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純ガソリン車に搭載される「M15A-FKS」型1.5リッター3気筒エンジン。従来モデルのエンジンより最高出力が11PS(109PS→120PS)、最大トルクが9N・m(136N・m→145N・m)アップしているほか、燃費も17.0km/リッターから18.3~18.4km/リッターへと改善している(WLTCモード)。
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シフトゲートは古式ゆかしきストレート式だが、マニュアルモードはDレンジからレバーを右に寄せて作動させる仕組みだ。ズボラに操作しても、他車のストレートゲートのように「Dレンジに入れたつもりがMレンジに入っていて焦った」ということにはならない。
知れば知るほど感心する
格納時にはその存在を一切意識させることのない3列目シートが、ちょっと常用がはばかられるほど小さくて薄かったり、シートアレンジ時に2列目シートを復帰させる際、思わず掛け声を上げたくなるほど大きな力を要求されたりと、細部を見渡せば注文をつけたくなる部分は確かになくはない。
けれども、そもそもこのサイズのモデルで3列目のシートを常用しようと考える人のほうがまれであろうし、普段は2列シートで広大なラゲッジスペースを備えたモデルとして付き合い、いざというときにはさほどの無理なくプラス2名の大人を招き入れることが可能なパッケージングの持ち主と考えれば、そこに大きなコンプレインの声を上げる余地などは見つからないに違いない。
なるほど、知れば知るほどに「とことんよく考えられている」と感心するしかなくなってしまうのが新型シエンタ。まさに“グゥの音も出ない一台”なのである。
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従来型からデザインが一新されたエクステリア。ボディーカラーにもビビッドな色はなく、全体的に落ち着いたイメージとなった。
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3列目シートは、空間的にも座席のしつらえ的にもあくまで非常用といった趣。シートの左右に収納ポケットが設けられているのが、せめてもの救いだ。
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3列目シートは、格納時には写真のとおり2列目シートの下に収まる。すっきりとしまえるのはうれしいが、2列目シートを倒して跳ね上げて……と手間が多く、また作業には相応に力を要する。
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5ナンバー枠に収まるボディーサイズで3列7人乗りを実現するだけでなく、従来型よりさらにスペース効率や動的質感を高めてきた新型「シエンタ」。知れば知るほど「よくできている」と感心させられるクルマだった。
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4260×1695×1695mm
ホイールベース:2750mm
車重:1300kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:120PS(88kW)/6600rpm
最大トルク:145N・m(14.8kgf・m)/4800-5200rpm
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:18.3km/リッター(WLTCモード)
価格:256万円/テスト車=294万6100円
オプション装備:ボディーカラー<ホワイトパールクリスタルシャイン>(3万3000円)/ファンツールパッケージ<カラードドアサッシュ[センターピラー]+内装色カーキ>(0円)/185/65R15タイヤ+15×5 1/2Jアルミホイール<切削光輝+ブラック塗装/センターオーナメント付き>(5万5000円)/パノラミックビューモニター(2万7500円)/ディスプレイオーディオ<コネクティッドナビ>Plus(8万9100円)/天井サーキュレーター+ナノイーX(2万7500円)/ドライブレコーダー<前後方>+ETC 2.0ユニット(3万1900円)/コンフォートパッケージ<UVカット・IRカット機能付きウインドシールドグリーンガラス[合わせ・高遮音性ガラス]+スーパーUV・IRカット機能付きフロントドアグリーンガラス+スーパーUV・IRカット機能付きプライバシーガラス[スライドドア+リアクオーター+バックドア]+シートヒーター+ステアリングヒーター+本革巻き3本スポークステアリングホイール[シルバー加飾付き]>(7万9200円) ※以下、販売店オプション フロアマット<デラックスタイプ>(4万2900円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1320km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(4)/山岳路(1)
テスト距離:328.6km
使用燃料:21.2リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:15.5km/リッター(満タン法)/16.3km/リッター(車載燃費計計測値)
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